自転車式ロッドレンズ砂掛機由来
Rod lens sanding machine
BICYCLE ROD LENS
自転車式ロッドレンズ砂掛機 誕生の背景
創業者の「世の中に無いものを作る、時代に必要とされるレンズ屋になる」という信念に基づき、夏目光学は加工技術の開発に創意工夫を凝らしてきました。
「世の中に無いもの」は、即ちその加工方法や加工装置が存在していないということであり、「世の中に無いものを作る」ことは、その加工方法を編み出すことに他なりません。
前例のない、無の状態から有を生み出すためには「柔軟且つ自由な発想」こそが必要不可欠です。
創業者夏目哲三の信念はこの自転車式加工装置を通じて、現在の夏目光学にも受け継がれています。
製作年:1988年頃
用途:ロッド(円柱:以下ロッドレンズという)レンズの砂掛け
製作当時、半導体露光装置(まだ黎明期)照明系のレンズには、シリンドリカルレンズもしくはドラムレンズが使われており、シリンドリカルレンズ製造は、ロッドレンズから製造されるものもあった。
直径10ミリ以下のロッドレンズは、これも自社製であるが社内加工機で加工対応ができた。しかしながら、直径10ミリを超えるロッドレンズは、砂掛け工程で社内製加工機の圧により、レンズ本体にクラックが多発し、後工程の研磨でクラックが除去できず不良品になるものが多かった。そのため、小型の今で言うところの「ベルトサンダー」のような簡単な機械を使って、一本一本手作業で手砂を掛けるという非常に効率的でない作業を行っていた。
当時の社長であった夏目哲三(創業者)は、「ベルトサンダー」に代わるロッドレンズに回転を与える機構として、自転車のタイヤを利用することを思い立ち、当時のロッドレンズ製造担当者に、工場近くで長い間放置されていた自転車を回収し、分解する事を命じ、材料の入っていた梱包箱のダンボール紙に簡単な設計図を書き、製作を命じたのが、製作の開始となる。
当初は、砂の粒度により#400と#1200の各1台のみの製作となったが、問題となったクラックの問題は解消され、砂掛け工程のクラックが原因とされる外周研磨後の不良は大きく減ることとなる。半導体露光装置の需要増に伴い、製作当初は製造数量が少なかったロッドレンズも増産となり、増産に伴い自転車式ロッドレンズ砂掛け機の台数も増やしていった。最初は手作業に拠るものであったが、その後マイコンを搭載し砂掛け皿の左右にふる作業(左右に振ることで、ロッドレンズは左右に回転しながら移動する。)は自動化され、一人の作業者が3台を管理できるようになった。
その後、精度の良いセンターレス機の導入に伴い、ロッドレンズの砂掛け工程は、センターレス機に変更され、自転車式砂掛け機はその役目を終える。

材料 | 用途 | 材料調達 |
自転車タイヤ (ハブ・スポーク付) | ロッドレンズに回転を与える | 廃棄自転車再利用 |
モーター | タイヤに回転を与える | 社内中古品 |
インバータ | モーターの回転数制御 | 購入 |
フット・スイッチ | モーターのON/OFF | 購入 |
Vベルト | モーターとタイヤをつなぐ | 社内中古品 |
プーリー | Vベルトの接続 | 社内中古品 |
アングル | 装置の骨組み | 社内使用済品 |
チャンネル | 砂掛け皿の工程箇所 | 社内使用済品 |
鉄板 | 土台及び砂受け皿 | 社内使用済品 |
帯板 | 砂掛け皿操作ハンドル | 社内使用済品 |
鋳物丸棒 | 砂掛け皿として | 社内使用済品 |
泥ポンプ | 砂の吸い上げ | 社内中古品 |
バケツ | 砂の容器 | 社内中古品 |
ホース | ポンプから吸い上げた砂を皿迄つなぐ | 社内購入済品 |
電源コード | モーターの電源取込として | 社内中古品 |
電線 | 電気系統の接続 | 社内中古品 |
ジョウロ・たわし | 機械掃除用として | 社内購入済品 |
後世に伝えたいこと
今の夏目光学は、ナノメートルを制御する時代に入り、自転車式砂掛け機の様な、簡単な装置で対応できる、技術のレベルでは無くなってきている。しかしながら、当社も最初から、ナノメートルを制御する技術があったわけではなく、創業者で初代社長である夏目哲三の「世の中に無いものを作る、時代に必要とされるレンズ屋になる」の信念に基づき、創業以来、加工技術の開発には、創意工夫を凝らしてきた。時代時代で要求される精度を越えていく為の努力を日々先人より積み重ねられて今日がある。先述の通り、時代は自転車式砂掛け機が活躍した頃と違い、何桁も違う要求精度となり、その要求精度に対応するために、一台億単位の装置導入もしなければ対応できなくなった。
大事なことは、「世の中に無いものを作る」ということは、加工方法や加工できる装置が存在しないことにも拠り、その現実には全く何も無い状態から、実現の為の柔軟な且つ自由な発想が必要である。またそこには、「最小の投資で最大の効果を得る」ことが何よりも欠かせないこととなる。今は盛んに「費用対効果」ということで評価を受けることが多いが、自転車式砂掛け機製作の頃は、それほど声高に言われることも無かったし、また今日のような億を超える装置を導入することもなく、筆者の記憶では当社の大きな当時の投資は、干渉計とF1クリーンという洗浄機が1千万超えで、多くは自社製の装置で作業者が装置の能力不足は、工夫と腕で補っていたと思う。逆に、「費用対効果」という評価ができるようになったのは、ある意味会社が当時よりは「(いろんな意味に於いて)豊かに」なった証なのかもしれない。
後世に伝えたい事は、夏目哲三の信念と自由な発想に基づく、技術の構築である。乱暴な言い方をすれば、高価な機械を購入すれば対応できる範囲の仕事も世の中には存在し、そうすればいいのかもしれないが、それは財力のある企業と競争しても勝てないわけで、そこには、創意工夫といった知恵が絶対に必要である。現在に於いても、購入する機械の多くは、当社のオリジナルと成る要求に基づきオプション機能が付加され、以前の様に、機械だけで足らない能力は、担当する作業者の努力と工夫と知恵で補われているのは変わらないことである。
夏目光学の市場価値は、高い精度要求に答え、世の中に無い製品をリリースすることにあり(筆者個人的見解)、この会社が現在の企業業態を継続する限り市場価値は変わらない。
創業者でありこの自転車式砂掛け機の発案者である夏目哲三は、2012年二回目のロンドンオリンピックが開かれた年の10月9日享年92歳で旅立った。既に当社も創業から74年の時を経て、その間に5人の経営者に経営がバトンタッチされている。これから創業80年、ひいては100年企業を目指す中で、「自転車式砂掛け機」は後世に引き継いでいくべき、夏目光学の思想の表れとして、いつまでも保存と語り継いでいってもらいたい。
夏目哲三より、自転車を拾ってダンボール紙に書かれた設計図を基に製作する指示を受けたのは、筆者であるが、関わったものとしての願いでもある。
2021年3月5日
(文責:専務取締役 本田英則)